京大理学部は理学科のみの1学科制をとり、入学時には専門を固定せず緩やかな専門化により学生の興味や関心を広げるカリキュラムを組んでいます。化学系に進み春から大学院(理論化学研究室 電子状態理論グループ)に進学予定の理学部 4回生、小坂舞莉亜さんにお話を伺いました。


現在取り組んでいることについて教えてください。

 去年の8月に大学院の入試が終わり、10月から研究グループに入り卒業研究に取り組んでいます。最初は研究進捗報告会に参加して上級生の方の研究について聞いたり、プログラミングの練習をしたりしていました。今はコンピュータを使って電子励起状態を詳細に解析しています。
所属している研究室では、他大学との共同研究も行っています。例えば、量子センシングを医学へ応用する研究では、分子作成やスピン計測、得られた知見を治療に活用するなど、各段階で役割を分担しています。プロジェクトの関係で、九州や岐阜に行って交流できて楽しいです。3月には沖縄で研究発表の予定があります。


研究の内容についてもう少し詳しく教えてください。

 ORCAという量子化学プログラムを使って、BDP-PXZという三重項増感剤(注1)の計算をしています。この分子は、スピン軌道相互作用(注 2)が大きい重い原子を含まないにも関わらず、系間交差(注3)の確率が高いことが実験的に報告されています。モデル計算でなぜそうなるのかを理論的に解明しようとしています。この物質で系間交差の確率が高くなる機構についての知見が得られたら、狙ってそういう分子を作れるようなります。


理学部に入学するまでについて教えてください。

私が科学に興味を持ち始めたのは小学校の頃です。小学生の頃からずっと、「化学者になりたい」と言っていました。小学3年生の時に、通信教育の副読本で理科のページばかり見ていたら、親が「そんなに理科好きなんやったら科学者になったら?」と言って高校生物と高校化学の図録を買ってきてくれました。その時は生き物が好きだったのですが、化学の図録を見たら炎色反応の写真がすごく綺麗で、化学者になろうと思いました。京大理学部を選んだのは、実家に近い関西圏で選べと言われていたのもありますが、やっぱり雰囲気ですね。学祭やオープンキャンパスに参加し、自分に合っている雰囲気かなと感じました。地元の和歌山では珍しいですが、高校の部活の先輩に京大理学部に進学した人がいたというのも興味を持つきっかけになりました。


理学部に入ってよかったところを教えてください。

理学部はやっぱりカリキュラムがすごくいいなと思っています。自由度が高く、時間割が必修科目でビッシリ埋まるようなことがないから、他学部の聴講にも行けます。私は有機が好きで有機合成にも興味があったので、薬学部の「創薬有機化学」や「医薬品化学」という講義をとっていました。薬を作るという目標に向かって、社会に役立てるとか環境に優しく合成するとか、理学部とは全く違う新しい視点で有機合成の戦略を学べたのはとても興味深かったです。でもやっぱり自分はcuriosity-drivenな研究の方が好きだなというのがわかりました。視野が広がって面白かったです。


系登録について教えてください。

高校の頃から化学の中でも有機化学が好きだったのですが、3回生の末に軽い気持ちで理論化学の研究室を見学した時に心変わりして、理論化学に進みました。1回生の頃から工学部の理論化学の研究室でアルバイトをしていて親しみがあったというのもありましたが、実験に先回りして結果が分かってしまうというのが、すごい強力で魅力的だなと思いました。


高校生へのメッセージ

「できることよりも自分の興味のあること」ですね。ずっとやってきたこととか、得意なこととは違う、と躊躇しないで「これや!」って思ったらやってみるのが大事だと思います。あと高校生や中学生には、理科系オリンピックを受けて欲しいなと思います。問題文に散りばめられているヒントを読み解いていくのがパズルみたいで面白いし、勉強のモチベにもなります。


注1:三重項状態という特殊な励起状態になりやすく、エネルギーを長い時間持ち続けることができる物質。エネルギーを効率よく他の分子に渡すことができる。
注2:電子のスピン角運動量と軌道角運動量との相互作用のこと。スピン軌道相互作用が大きい物質では、分子が三重項状態に遷移しやすい。
注3:分子が光を吸収して励起状態になった後、一重項状態から三重項状態に遷移する現象。